昭和55年4月から昭和58年9月(九州大学にて)
1.「水溶性ポルフィリンの水溶液中での分子錯体形成に関する研究」

 光合成の反応中心モデルであるポルフィリンの光化学に関する研究を行った。特に、水溶性ポルフィリンがキノン類および芳香族分子と分子錯体を形成することを見出し、分光学的および熱力学的な解析を行った。

昭和58年10月から平成4年3月(長崎大学・京都大学にて) 2.「多糖被覆リポソ−ムの構造安定性・細胞認識性に関する研究」

 コレステロール基を結合した多糖誘導体のリポソームへの被覆挙動を蛍光プローブ法などを用いて解析した。また、マンナン被覆リポソームはマクロファージに効率よく取り込まれ肺への指向性を有していることを見出した。


3.「モノクロ−ナル抗体を結合した多糖被覆リポソ−ムの癌細胞への選択的な薬物運搬に関する研究」

 モノクロ−ナル抗体を結合したプルランで被覆したリポソームは、構造安定性に優れ、 in vitro および in vivo において肺ガン細胞に特異的に結合した。アドリアマイシンをリポソーム内に封入して、肺癌マウスに静脈内投与したところ癌組織の消失や縮小がみられ、治療実験に成功した。

4.「多糖被覆リポソ−ムを用いたドラッグデリバリーシステムとしての応用」

 多糖被覆リポソームの細胞特異性を利用して抗菌剤や高分子性免疫賦活剤の免疫細胞への選択的な導入を行い、in vitroおよびin vivoにおいて、活性の向上に成功した。さらに、白血病ウイルスの抗原を封入した多糖被覆リポソームを動物に投与したところ、細胞性免疫が誘導され、人工ワクチンとして利用できることを示した。


5.「細胞からリポソームへの膜タンパク質の転移とワクチンへの応用」

 癌細胞とリポソームを混合することで、細胞の膜タンパク質がリポソームへ効率よく転移する現象を見いだした。膜タンパク質が転移したリポソームを動物に投与することで細胞性免疫が誘導され、癌に対する人工ワクチンとして利用できることを示した。

平成4年4月から現在まで(東京工業大学と慶應義塾大学にて)
6.「糖脂質の膜中でのトポロジーと情報分子としての機能解析」

 最近、細胞膜中におけるスフィンゴ糖脂質のドメイン形成がトピックスとなっている。本研究では、細胞膜に存在する糖脂質の膜中でのトポロジーと認識機能を解析するために単分子膜を生体膜モデルとして用い、糖鎖の機能を詳細に解析している。この手法を用いて、膜組成の違いにより糖脂質のトポロジーや認識機能に与える影響を明らかにした。また、糖鎖の構造と受容体機能との関連を厳密に評価できることで、新たな受容体の発見などに成功している。


7.「バイコンビナトリアル合成によるオリゴ糖鎖のライブラリーの構築」

 オリゴ糖鎖は医薬品やバイオテクノロジーの材料として注目されているが、その研究を支えるためには糖鎖ライブラリーの構築は重要なテーマである。有機合成や酵素合成によるオリゴ糖鎖の供給には限界があることから、新たな手法として、細胞を用いてオリゴ糖鎖を合成する「バイオコンビナトリアル合成」法を提唱し、糖鎖ライブラリーの作製を目指している。動植物細胞は由来に応じて特徴的なオリゴ糖鎖の合成を行っており、糖鎖プライマーを培養液中に投与することで、より複雑なオリゴ糖鎖を産生させることに成功した。これまでに数種類の細胞を用いてオリゴ糖鎖の合成を行い、構造決定を行った。


8.「ファージディスプレイ法を用いた感染阻害活性を有するペプチドの開発」

 スフィンゴ糖脂質の関与した毒素やウイルスの感染過程を阻害するペプチドをファージライブラリーからセレクションしている。特に、スフィンゴ糖脂質の単分子膜を用いることで、糖鎖に親和性の高いペプチドをセレクションすることに初めて成功した。このペプチドは糖脂質に結合し、コレラ毒素の糖鎖への結合を効率よく阻害することを見いだした。また、インフルエンザウイルスに特異的に結合する環状ペプチドのセレクションにも成功した。


9.「遺伝子の細胞内へのデリバリーシステムの開発」

 超分子集合体を用いた遺伝子のデリバリーシステムを開発している。これまでにアルキル鎖・ポリエチレングリコール鎖・糖鎖を有したカチオン性脂質を合成し、DNAとの複合体形成と細胞との相互作用について検討した。また、天然のアミノ化多糖であるキトサンとプラスミドとの複合体では、非常に高い遺伝子発現活性が見いだされ、発現機構および遺伝子治療への応用について検討している。